能楽《道成寺》は聖婚物語?

新型コロナウィルス終息祈願 能楽2020》最終日に行って参りました。

10日連続、各流派宗家、国宝のかたの出演が連続する豪華な企画です。COVID-19感染予防のために客席は半分で実施しました。様々なバックアップがあってこそ為せる運営ではありますが、ひとつのモデルケースにはなるかもしれません。

対策はこんな感じです。
国立能楽堂にはいるには、まず外で手洗いを行います。(禊がれて気持ちよかったです。毎回やってもいいくらい…)しかして入口正面にはサーモグラフィックカメラ、体温チェック、手指消毒、チケットもぎりとパンフレット獲得はセルフでお願いします、というスタイル。参加者としてはなんら不自由なかったです。

やるからには、演者とスタッフの方は、見えないところで、さぞかし気を遣われたことと思いますが…。ありがとうございます。

おかげさまで、久しぶりに時空を超えた旅を楽しみました。人の密度も、本当はあのくらいが能空間が自然に呼吸しててよいですね。

最後の《道成寺》は80分と長い演目なので(目玉だからですが…得てして能楽の演目は長く、これでも今回は全体を短く押さえてるそうです)、どうしよーかなーっと迷いましたが観てよかったです。

《道成寺》は、みなさんもご存知、安珍・清姫伝説がベースで、男への恨みで成仏できない女が蛇になる恐ろしいおはなしです。見せ場の乱拍子(らんびょうし)は、シテ(主役)と小鼓だけで演じられ、観てる側も神経をつかう15分です。その最高潮で、降りてくる鐘の中に女が飛び込むという危険でアクロバティックな場面もあります。お能初心者の私(参照:《日本の芸術を愉しむ: はじめての能楽》)は、昨年、初めて観た時にはたまげたものでした。

去年に引き続き、この演目を観るのはまだ2回目。
今回は、不思議に透明感のある後味でした。

これは私の考えですが、能楽における《道成寺》は、性エネルギーを昇華して精神/肉体の聖なる結婚物語としても読み解くこともできます。フロイトはそれを精神の根底にあるリビドーといい、ユングはグレートマザー(大地母神)といいました。

インド哲学/ヨガでは、クンダリニー、シャクティと呼ばれます。それは腰にとぐろをまく「蛇」とされてきました。性エネルギーはいのちの源ですから無尽蔵の力を持ちます。取り扱いや使う方向性を間違えて暴走してしまうと精神の秩序・バランスが崩れて大変なことになります。これが《道成寺》におけるシテ(主役)の女・白拍子が、男に固執して成仏できずに蛇に化けた状態と重ねることができます。

東洋でも西洋でも、この性エネルギーを「精神の発達と共に」昇華・変換して智慧(カラダにおいて知性と愛が結晶したあり方)を完成する方法が秘教として発達しました。東洋ではタントラ、西洋では賢者の石などと言われて受け継がれてきました。

そのコンセプトの一部を取り出して乱用する組織や人もいたため秘教とされてきたのでしょうか。だからか、妙なイメージや妄想ばかりが先に立っているのは残念ですが、本来はとても合理的でシンプルな精神/肉体の「科学」だと考えます。

話が飛びましたが、《道成寺》の中で、シテ(主役)の白拍子が鐘の中に飛び込む演出は、エンタメとしての見応えはもちろん、どうも「質の変換」に見えるのです。エネルギーの「質の変換」を間違えて、蛇に「化ける」白拍子。もう、自分のコントロールは効きません。それを昇華するのが僧侶の祈祷=つまり精神の発達。奇しくも《道成寺》は「道を成す寺」です。つまり智慧を完成を指してるようにも読めます。

人間の感情ドラマ以外のレイヤーとして、そのような元型を見出すとなかなか面白いです。解釈は自由とはいえ「型に嵌めるのは気に食わない」という見方もあるかもしれません。

しかし、世界中で普遍的な芸術的表現は、何かしらこの成分をもちあわせ、そこから多様な表現に分岐していったものとすれば、無意識で私たちが共有している「元型」は、あらゆる現象に落とし込まれ分離する以前の豊穣さをたたえてるので、むしろ、そこに触れて観ることは豊かな体験をひらく鍵になるように思います。

西洋人は、この元型においてはヒエラルキーと次元上昇のコントロールに長けていますが、日本人は主にその繋がりを曖昧に行き来しながら継承していくことに長けています。それが能だと考えるとしたら…。やっぱり不思議です(笑)

演者は、そんなことは差し置き、それぞれ無心で舞台に入って行かれることと思います。今回の舞台は、白拍子がウブな娘のような可憐さでした。

(余談)

午後2時開演、4時15分終演って、なかなかいいです。
隣のおじ様はスーツで、《道成寺》だけ来てたから、金曜のお仕事中抜けだったのかな。都内摂氏35度の中、品よくお着物をまとわれてきた淑女たちも麗しく。お年を召した紳士には、黒塗りクラウンがお迎えにきて、サーッと帰られて行きました。

私は自分でマイカー運転して帰宅。帰りは青梅街道が渋滞でしたが、ラヴィ・シャンカールのラーガ音楽聴いて調子がキープされて帰りました。ラーガとお囃子には接点を感じます。この辺は気が向いたら今度書こうと思います。

INFO

新型コロナウイルス終息祈願
能楽2020


外国人がとったプロモーション動画が新鮮です。
能楽の写真・動画はどうも型だけのものが多く「WOW!」という感動がないものが多いので。

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