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タグ利益を最大化する戦略的広報

ナポレオンの広報戦略

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かつて、肖像画を通じて、強力な広報活動をおこなった人がいました。

フランス革命後の混乱後、類まれなリーダーシップと指揮力で各地の戦争に勝利し、1804年、フランス皇帝にま上り詰めたナポレオン・ボナパルトです。

ナポレオンは、当時、フランス革命のスピリットであった「自由」を体現した人物として英雄視されており、ヘーゲルがナポレオンを「世界精神」と見立てて絶賛していたり、ベートーヴェンの交響曲のインスピレーションとなったことでも有名です。

ナポレオンは戦争と政治だけでなく、広報の戦略にも長けており、自身のビジョンのためにイメージを自在に拡散していました。それは、描かれている肖像画によって、「顔」がまったく違うことでわかります。

明らかに、肖像画を描かせたナポレオン側に広報戦略があったのですね。

もっともそれを示しているのが、皇帝に即位したナポレオンの肖像群です。

宮殿や官公庁に設置するために、戴冠式の皇帝の肖像画や彫像が、もりもり制作されました。パブリシティです。

共通してるのが、皇帝しての理性的な顔つきと、絶対的な指導者としての吸引力。そして、それを裏付けるロジックとして、人民の理想を体現した「フランス」の正統な君主であることを示す象徴が散りばめられてること。

  • 月桂冠(古代ローマの皇帝を継承していることをアピール)
  • 白テンの毛皮とビロードのマント(歴代のフランス王室が使用)
  • マントの紋章はフランス最古の王朝とみなされるメロヴィング朝ゆかりのミツバチ(これまでフランス王家が使用してきたフルール・ド・リスではなし)
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玉座のナポレオン1世
アングル画、1806年軍事博物館蔵)

この衣装を着用するのに、1時間かかったらしいです。儀式ですね。

まず、顔が正面であることに注目してください。正面の顔は「威厳」を感じさせる宗教画に多様されてきた表現です。

また、衣装は、ルイ14世も好んで王立レース工房を設立したというアランソンのレースの胸飾り、白のサテンでできた半長靴なども見事で、当時のフランス服飾、工芸の最高峰を集めたことをうかがわせる豪華さ。

また、胸に、レジオン・ドヌール勲章(現在でもフランスの最高勲章であり、ナポレオンが制定した栄典制度)をつけていることで、新しい制度をつくる主として権力の中心であることを示しています。

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ダヴィッド『ナポレオン一世の戴冠式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠

違う画家、ダヴィッドが描いた有名な絵画です。上と衣装同じです。これは、当時の奥さんだったジョゼフィーヌに自ら戴冠している図です。(そういえば、ナポレオンは婚姻も戦略的に用いた)

フランス革命を起こされた側のフランス・ブルボン王家において絶対王政の最盛を極めたルイ14世の肖像と比較すると、ナポレオンの戦略がより明確に見えてきます。

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リゴー画、1701年ルーヴル美術館蔵)

ファンシー・・・。HIP-HOPのアーティスト並みに全身ブリンブリンですよね(笑)

そのポーズに白タイツ!!!!ルイ14世はメヌエットを最初に踊った人と言われてますが、今にも踊り出しそうです。私の友人は、「この格好で男子がデートにきたら、ひく」と言ってました。女性よりも華麗なのは確かですね。

そして、カツラです。ルイ14世は、40人のカツラ師を雇って、細かいTPOに合わせて作らせてたそうです。しかし、フランス革命以降「貴族」の象徴として市民から憎まれるようになった(カツラは貧しい人の髪から作ってたそうです。高価なもので貴族が権力誇示のためにかぶりました。)ので、ナポレオンは着用せず、ストイックな短髪で、ローマ時代の哲学者のようです。

ナポレオンの威光は、市民に希望をもたらす、将軍時代の精悍な英雄像から始まります。

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ダヴィッドベルナール峠からアルプスを越えるボナパルト

どこから、どう見ても、神話の中の軍神。

それは、ナポレオンが皇帝に即位する前のことです。オスマントルコが支配していたエジプトの戦争に勝利後、ヨーロッパ諸国との戦争でフランスの形勢が悪くなり、フランスに戻ったナポレオンは民衆に熱狂的に迎えられました。

その勢いにのって、ブリュメールのクーデターを起こし、第一統領に就任。その後、北イタリアを攻めるための初の遠征で、オーストリア軍に勝利する契機となった奇襲作戦を行った際の様子を図像化した絵画です。

このように、ナポレオンは、彼の事業の中において、非常に上手に肖像を活用して広報活動をおこない、その中で、「英雄」→「軍神」→「皇帝」というイメージを確実に醸成してきました。

それは、単なるイメージ上の遊びではありません。相当、優秀なブレーンもいたのは間違いないですが、

・誰に対して(今でいうと顧客)何をもたらすことができるか(今でいうと商品・サービス)
・それはどのようなメリットを社会にもたらすか(今でいう顧客満足)
・強みが利益をもたらす領域(今でいう収益性)
・それをスムーズに運ぶには、どんな広報が有効で、何が無駄か。

他の人にはわからずとも、一貫性のあるロジックの中に広報活動をあてはめ、自分自身をブランド化し、さまざまな事業を行ったのでした。ナポレオンが行った事業の中には、有名な「ナポレオン法典」があります。これは近代市民社会における法の規範になっています。

色々な批判はできますけど、社会に対して個人の欲を超えたビジョンがあったから、自分を客観的に扱えたのだと思います。

 

このナポレオンの広報活動が外観できるのが、いま東京・国立新美術館で開催中の【ルーヴル美術館展 肖像芸術 ―人は人をどう表現してきたか】です。

ルーブル美術館は、ナポレオンが諸国に侵攻して美術品を剥奪し、コレクションを増やしきたわけですので、ナポレオンの頭の中を垣間見るのにも興味深い展覧会です。

過去のエジプトやシュメール、シリアなどの肖像に神性を宿らせた時代から、絶対王政の権力を華麗に表現した時代、近代ナポレオンのように「人」の個性と社会的なメッセージを運ぶようになるまでを網羅している肖像画の歴史は、広報の歴史とも言えるかもしれません。

 

【 ルーヴル美術館展 肖像芸術 ―人は人をどう表現してきたか 
■ 会期:
2018年5月30日(水)- 2018年9月3日(月) 毎週火曜日休館 ※ただし8/14(火)は開館
■ 開館時間:
10:00-18:00
※金・土曜日は、6月は20:00まで、7・8・9月は21:00まで
※入場は閉館時間の30分前まで
■ 会場:
国立新美術館 企画展示室1E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
WEB
http://www.ntv.co.jp/louvre2018/

 

梅澤さやか
株式会社KAFUN代表取締役